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「 瞳はダイアモンド 」のすごい歌詞を徹底分析・松本隆の職人技が冴える

we love seiko

 

「 瞳はダイアモンド 」松田聖子
作詞:松本隆 作曲:呉田軽穂 編曲:松任谷正隆
1983年10月28日発売

 

ぶっちゃけ音楽は“コード進行4割:メロディ3割:アレンジ2割:歌詞1割”で聴いています、ハナオです。

 

つまり通常は音楽鑑賞時あまり詞にウエイトを置いて歌を聴いていませんが、詞を軽視しているわけではありません。

 

逆に虫眼鏡で拡大しながら爪楊枝の先で言葉をチリチリをほじくるような聴き方が好きで、でもいちいちそんなことしていたら疲れてどうしようもないので普段はやらないだけです。

 

松本隆さんは個人的に大好きな作詞家ですが、その中でも「 瞳はダイアモンド 」はその詞の完成度の高さ・すごさがハンパなく、唸らせられました。

 

音のブログとしては珍しく詞を取り上げ、作詞の勉強をされている方が読んで少しでも役に立つように、徹底的に分析してみたいと思った次第です。

 

 

 

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作詞の勉強にもお勧め「 瞳はダイアモンド 」の歌詞を徹底解説

松田聖子のシングル表題曲

「 瞳はダイアモンド 」は、松田聖子さんの15枚目シングル曲です。

 

最終的なセールスは56万8000枚と松田聖子さんのEPとしては突出した売り上げ数ではありませんが、発売翌月と翌々月のオリコン月間ランキングは1位、長年に亘って多くのミュージシャンにもカバーされた知名度の高い歌です。

 

正直申しますと、ハナオは松田聖子さんのパーソナリティがデビュー当時から今に至るまで一貫して苦手でして、でも彼女が山口百恵さんと並び称される昭和を代表するアイドルであると認めてはいますし、個人的な嗜好で音楽の良し悪しを振り分けるような真似もいたしません。

 

実際松田聖子さんには、素晴らしい作品がいくつも提供されていますし。

 

その中でも「 瞳はダイアモンド 」は、愛車でのドライブBGMに手挟むくらい好きな歌だったりします。

 

「 瞳はダイアモンド 」の作曲者、呉田軽穂の正体はあの人

「 瞳はダイアモンド 」の作曲者は呉田軽穂さん。

 

その正体は松任谷由実さんで、他人へ曲を提供する際に上記のライティングネームを用います。

 

編曲が夫の松任谷正隆さんで、コードイーターのハナオにとってユーミン&マンタコンビが手がけたこの歌は、なんともいじくりがいのあるプロットです。

 

でも、今回はグッとガマンです。

 

 

松本隆の職人技が冴えわたる「 瞳はダイアモンド 」の歌詞

それでは本題に入って「 瞳はダイアモンド 」のすごい歌詞を分析してまいります。

 

愛してたって言わないで……

 

エレキピアノの弾き語りでしっとりと始まるAメロ後半の旋律に載せたこの一節がまず凄い!

 

「 瞳はダイアモンド 」が、

・失恋の場面の

・主人公は悲恋のヒロインで

・相手から別れを切り出されたが

・それを良しと受け止めていない

歌であることがわかるたくさんの情報が、たった10文字の中に詰め込まれいます。

 

後に続く歌詞との兼ね合いから、別れを告げられた時間軸( つい今しがた )も明らかになっていきます。

 

イントロが短い名曲たちに取り上げましたが、実際にはアウフタクトを含む同パートおよびこの後の計13小節がイントロ部に相当し、コーラスエフェクトのかかったカッティングギターが同曲アレンジのキモとして抜群のインパクトを醸します。

 

映画色の街 美しい日々が
切れ切れに映る いつ過去形に変わったの?

 

Aメロパートその1で、同ソングのキラーセンテンス。

 

ここの歌詞で打ちのめされた方は数多く、ハナオも当然そのひとりです。

 

「 色 」は、抜群に使い勝手が良い魔法の単語です。

 

「 色 」を歌詞に練り込むのは松本隆さんの十八番ですが、「 色 」使いの作詞家はプロアマ問わず腐るほどいます。

 

赤、青、水色、緑、白、黒など現実に存在する色は言うに及ばず、ありもしない色を作り上げても聴く側が勝手に想像してくれますし、その色のイメージを得ようと近接する歌詞に聴き入ってくれる効果も発揮します。

 

その効果を知っているライターたちは、安売りのポップコーンを口に放り込むみたいに○○色を使ってきますが、さすが松本隆さんは違います。

 

もちろん造語な「 映画色 」が修飾するのは「 街 」で、これはサイヤ人も裸足で逃げ出すスカウターMAXのパワーワード。

 

いきなりこんな言葉から歌がはじまったら、聴き手の「 色 」妄想の混乱が起き、その後の歌詞が耳に入ってこないかもしれません。

 

ですから、出だしの「 愛してたって言わないで 」フレーズでこれは失恋の歌だと道しるべを示しておき、更にインストのイントロでワンクッション挟んだのであろうと考えます。

 

良く出来てますね~。

 

さて歌詞に戻って、「 映画色の街」は主人公がさっきまで恋人と一緒にいたこの場所のことで、別れを告げられた瞬間から街の風景がふたりの想い出の数々を映すスクリーンへと変わってしまいました。

 

「 切れ切れに映る 」で主人公の心の動揺を表し、「 いつ過去形に変わったの? 」で現実を受け止められずに呆然とする様子を描く、美しくも残酷に置き換えたシビれる語彙選択です。

 

あなたの傘から飛び出したシグナル
背中に感じた
追いかけてくれる優しさも無い

 

ハナオはこの部分をAメロとは分けてA’メロとしましたが、その理由はのちほど。

 

「 傘 」の登場で雨が降っている情景はわかりましたし、この後にも雨に関するワードがいくつも出てきます。

 

「 傘から飛び出したシグナル 」も実に味わい深く、冴えたセンスの比喩表現です。

 

もちろん、表しているのは傘を差す彼ごしに見える信号機のことですが、この色も気になるところ。

 

ハナオは初めは青信号だと思っていました。

 

せめて信号が赤に変わって去りゆく彼の歩みを止めてくれたなら……信号さえも優しさが無い……そんな絵を浮かべていました。

 

でもよく聴き直してみたらこの信号は赤ですね。

 

信号が赤だから、止まっている彼のこちらに向けっ放しの「 背中 」に視点が合っているのです。

 

「 追いかけてくれる 」は、彼が戻ってくることへの期待ですが、別れを撤回するためではありません。

 

「 優しさ 」に「 も 」の副助詞を使っているのでわかりました。

 

赤信号で止まったのに、別れに傷ついたうえ雨に濡れている私にせめて傘を差しだしてくれないまでも、振り向いて気遣う優しささえも見せてくれないのね……うわっ、ヤバイ、解説していて泣きそう!

 

実はこの部分にはもうひとつ違った解釈を充てることも出来ます。

 

「 追いかけてくれる優しさも無い 」を「 感じた 」のは、主人公の女性の「 背中 」とする解釈です。

 

こちらの解釈もアリだとは思いますが、そうなると「 あなたの傘から飛び出したシグナル 」がどこに帰着するのかが判然としません。

 

この1フレーズだけが浮いてしまうのです。

 

単なる情景描写? いやいや、松本隆さんはそんな無粋なことはしません。

 

やはり「 背中 」は彼氏のものと考えるのが、抒情的にも相応しい気がします。

 

上記でちょっと触れましたが、この5~8小節目の旋律がAメロと異なる、ここA'メロの歌詞とメロディのシンクロ技もシブいですよ~。

 

1番の「 追いかけてくれる優しさも無い 」、2番の「 二人の青空消すのが見えた心が絶望へと落ち込んでいく詞を、低い音からはじまり更に下降していくメロディで補って相乗効果を出しています。

 

今記事のテーマの歌詞とは関係ありませんけどね、これは。

 

関係ないついでにもうひとつ、まだあります。

 

「 追いかけてくれる優しさも無い 」の「 無い 」の符割りが、「 やさし~さ~も~な~い~ 」と続けて歌うのでは無く、「 やさし~さ~も~~ 、ない 」と「 無い 」を切り離して一瞬ためています。

 

この“ため”により、恋に敗れた女性が吐息のように漏らす様子を描き出しています。

 

ああ 泣かないでメモリーズ

 

「 ああ 」サビのキャッチ、作詞・作曲が同じ松本・呉田の「 Woman 」( 歌:薬師丸ひろ子さん )でも使われている感嘆詞は松本隆あるある。

 

歌詞中の感嘆詞に関しては別記事で詳しく取り上げる予定ですので、ここはサラッと流します。

 

幾千粒の雨の矢たち
見上げながらうるんだ
瞳はダイアモンド

 

天気が雨は確定で、主人公が丸腰の傘無しもほぼ決まり。

 

別れに涙していることも確かでしょうが、濡れているのは雨のせいなの、な強がりがいじらしいです。

 

また、降る雨を「 矢 」と表現することで、失恋にたたずむ自分に追い打ちをかける存在としています。

 

このように命の無い事象・物体を他の命の無いものに例える比喩を“隠喩法”( いんゆほう )といいます。

 

命の無いものを人間や動物など命があるものに例える“擬人法” ( ぎじんほう )と並び、作詞には必須のテクニックです。

 

 

「 雨 」を修飾している「 幾千粒の 」の語彙センスにも注目です。

 

 

「 矢 」となった「 雨 」が主人公を“無情に”痛めつけるにちょうど良い案配の降り具合、でも目を開けて空を見上げられる程度の雨の密度……品性を度外視して分析するとこうなります。

 

でも、「 雨 」にくっつける言葉として「 幾千粒 」を持ってこられる松本隆さんの引き出しには他のどんな言葉がしまってあるのか?興味が湧いてさえきますよね。

 

 

さて、問題はこの歌のタイトルにもなっているサビのシメ。

 

なにゆえ「 瞳はダイヤモンド 」なのか?

 

川内康範先生原作の前世魔人と戦うヒーローが……いや、こちらの話です、忘れてください。

 

浮かんできてこぼれそうな涙をきらめきに例えています。

 

きらめきの元たる目( 瞳 )をダイアモンドに置き換えたのも、精一杯の強がりです。

 

出来たのは詞が先か曲からなのかは知りませんが、おそらくこのタイトルありきの歌だったのでしょうね。

 

それまでの歌詞のすべてがここに帰結しています。

 

当たり前のようで、このポイントがズレたりブレたりして着地点がどこかに吹っ飛んでしまっている歌は、プロの作品でも結構見られます。

 

二番の歌詞に入ります。

 

悲しいうわさも微笑い飛ばしたの
あなたに限って
裏切ることはないわって

 

ついさきほどまで彼を信じ込んでいた主人公の心理。

 

ひょっとしたら……の心配が無いわけありませんね、話が耳に入っているのですから。

 

最悪のシナリオの予感だってしているはずです。

 

それでも彼のことは誰もよりも私が一番良く知っている! いや、そのはずよ!

 

上記のいじましい女心は"わらい飛ばす”に「 微笑 」の漢字をアテているのがまたスゴイ!

 

“わらい飛ばして”なんかいない、これは女の強がりだということを「 微笑 」をあえてアテ字に用いることで表しています。

 

彼女の“微笑”にはシニカルな不安が混ざり込んでいるのです。

 

でもあなたの目を覗きこんだ時
黒い雨雲が
二人の青空 消すのが見えた

 

不安は的中してしまいました。

 

皮肉な現実をここでも隠喩法で表現、1番の「 雨の矢 」と同様に天候という自然現象で恋愛の成り行き表しています。

 

ああ 揺れないでメモリーズ
時の流れが傷つけても
傷つかない心は
小さなダイヤモンド

 

2番のサビ。

 

キャッチの「 揺れないで 」は「 心 」にかかります。

 

失意にハートがグラグラになりそうなところを必死で耐えています。

 

でも私の心は“ダイアモンド”のように硬いの、失恋なんかでは傷つかないわ!

 

まだ耐えています。

 

ああ 泣かないでメモリーズ
私はもっと強いはずよ
でもあふれて止まらぬ
涙はダイアモンド

 

ところが前の「 ダイアモンド~ 」が歌い終わらぬうちに「 ああ~ 泣かないで~ 」とまたサビのフレーズが被ってきます。

 

この即被りのアレンジもまたすごい! やばい、鳥肌立ちそう。

 

「 私はもっと強いはずよ 」と今しがた心は硬いって言ったばかりなのに、その舌の根も乾かないうちの瞬時に「 泣かないで 」と自己否定。

 

やっぱり耐えられませんでした、耐えられませんですよ、悲しいなぁ。

 

「 涙 」が「 あふれて 」止まりません。

 

1番ではかろうじて「 瞳 」にとどまって「 うるんで 」いた「 涙 」が、目からこぼれ落ちてしまいました。

 

歌詞中の「 ダイアモンド 」も、ここで「 瞳 」から「 涙 」へと変わったのです。

 

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以上、「 瞳はダイアモンド 」の歌詞を解説いたしました。

 

同曲の歌詞分析をされている方は多くいらっしゃいますが、読み込みが浅かったりピントのズレた解釈で受け取ってしまっている人を多く見かけます。

 

もったいないことですね~。

 

今度も機会がありましたら、名曲の作詞を分析しポイントや技法を紹介していく予定です。

 

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今回も最後までお読みいただきありがとうございました。